- 浮気は小さな行動の変化から発覚することが多い。
- 証拠を冷静に集めることで、感情的な対立を防ぐ助けになる。
- 真実を知った後の行動こそが、未来を大きく左右する。
登場人物
- 鈴木直樹(仮名)
40歳の広告代理店部長。家庭では理想の夫・父だが、浮気相手との関係が発覚する。 - 鈴木佳奈子(仮名)
38歳の専業主婦で直樹の妻。夫の不審な行動に気付き、探偵に浮気調査を依頼する。 - 佐藤美咲(仮名)
29歳の営業部社員で直樹の浮気相手。社内でも目立つ存在で、直樹と頻繁に接触する。 - 山崎探偵(仮名)
ベテラン探偵。冷静な分析力で調査を進め、依頼者に寄り添う姿勢を持つ。 - 三葉調査社のスタッフ
調査をサポートするチームメンバー。尾行やデジタル解析を担当し、証拠を収集する。
依頼の発端

2022年11月のある寒い日、都内に事務所を構える探偵事務所「三葉調査社」に、一人の女性が訪れた。彼女の名前は鈴木佳奈子(仮名)、38歳。上品なベージュのコートにエルメスのバッグを手にしており、優雅な立ち振る舞いの中にどこか疲れた表情が漂っていた。
「主人の様子が最近おかしいんです」と佳奈子は静かに切り出した。結婚15年目の夫・鈴木直樹(仮名)は、大手広告代理店に勤める部長で、40歳。端正な顔立ちと誠実な性格で社内でも評判が良く、家庭でも良き夫、良き父としての役割を全うしていた。しかし、ここ数ヶ月、帰宅時間が異常に遅くなり、週末も仕事と称して外出が増えたという。
「スマホのロック画面の通知が消えるのが早すぎるんです。それに、以前は隠さなかったLINEやInstagramの履歴も絶対に見せようとしなくなって……」佳奈子は夫の些細な変化を不安そうに語った。
「浮気を疑われているという確証は?」とベテラン探偵の山崎は尋ねた。佳奈子は一瞬言葉に詰まったが、夫が昨夜シャワーを浴びている間に見てしまったというメッセージの一部を口にした。
「『次は銀座でディナー、楽しみにしてる』という内容でした。送り主の名前は女性のものでしたが、詳しくは見られなかったんです」
調査を開始することが即座に決まった。初期費用として提示された額は25万円、全体の見積もりは60万円だったが、佳奈子はためらいなく承諾した。
「何としてでも真実を知りたいんです」そう言い残して、彼女は事務所を後にした。山崎は佳奈子が帰るのを見届けると、部下たちを集めて調査計画を練り始めた。こうして、40歳イケメン部長の浮気調査が幕を開けたのである。
部長の素顔と家庭の裏側
鈴木直樹は、見た目も中身も非の打ちどころがない「理想の上司」として社内外で評判だった。180センチの高身長に加え、黒髪をきっちり整えた洗練されたルックス。スーツは主にアルマーニを着用し、愛用の腕時計はロレックスのデイトナ。会議や商談でもその存在感は群を抜いており、部下たちからも絶大な信頼を寄せられていた。
一方で、家庭では2人の子供を持つ父親であり、良き夫でもあった。都内の閑静な住宅街に建つ一軒家に住み、毎年のように家族旅行へ出かける家庭的な一面も見せていた。しかし、探偵事務所に提供された佳奈子からの証言には、直樹の家庭内での変化も含まれていた。
「最近は食事中でもスマホを触ることが増えました。それに、以前は休日に子供と一緒に遊んでいたのに、仕事だと言って部屋にこもることが多くて……」
佳奈子の話を受け、探偵の山崎は家庭内での役割を完璧にこなしていた男が、何をきっかけに変わったのかを探る必要性を感じた。そして、直樹の社内での評価についても調査を進めることにした。
事務所が最初に確認したのは、直樹の勤務先での評判や人間関係だ。同僚たちの証言から浮かび上がったのは、最近特定の女性社員と親しくしている姿が目撃されているという情報だった。その女性は、営業部に所属する29歳の佐藤美咲(仮名)。華やかな見た目と社内での活発な立ち振る舞いで、周囲から一目置かれる存在だったという。
一方で、佳奈子から提供された家族の過去の写真や動画には、かつての直樹の家族愛が色濃く映し出されていた。探偵たちはこれらの資料を基に、直樹が何を失い、何を得ようとしているのかを紐解く糸口を探り始めた。
この浮気調査は、家庭と仕事という二つの顔を持つ男の深層心理に迫る試みでもあった。
初動調査: 通勤ルートと予備観察
調査初日、探偵事務所は鈴木直樹の通勤ルートと日常の動きを把握するため、尾行を開始した。直樹が利用するのは銀座線と山手線を乗り継ぐルートで、勤務先の最寄り駅は表参道。自宅を出る時間や駅での動きに目を光らせながら、探偵チームは細心の注意を払って観察を続けた。
ある朝、自宅を出た直樹はネイビーのコートに身を包み、ビジネスバッグを手に駅へ向かった。電車内ではスマホを操作しており、周囲の目を気にする様子もなくリラックスした態度だった。探偵が確認したところ、使用しているスマホは最新のiPhone 13 Proで、画面にはInstagramの通知がたびたび現れていた。
勤務先付近に到着すると、直樹はカフェに立ち寄ることが多かった。その日も勤務開始の30分前に表参道の「ブルーボトルコーヒー」でラテを注文し、窓際の席に座った。店内でスマホを操作する直樹の姿を捉えた探偵たちは、その行動の意図を推測しながら周囲を観察したが、この段階では怪しい接触は見られなかった。
さらに数日間の観察を続けた結果、毎週金曜日に直樹が定時退社後に向かう先があることが判明した。六本木ヒルズに隣接する高級バー「オークラウン」で、直樹は一人の女性と落ち合っていた。その女性こそ、営業部の佐藤美咲だった。二人はカウンター席で楽しそうに会話を交わし、時折視線を交わして微笑む姿が見られた。
その後、探偵たちは佐藤美咲の動向を追うとともに、二人の関係性をより深く明らかにするため、次の調査段階へ進む準備を整えた。こうして、初動調査は順調に進み、浮気の可能性が一層濃厚になりつつあった。
浮気相手との接触確認
初動調査で判明した六本木での接触を皮切りに、探偵チームは鈴木直樹と佐藤美咲の関係をより具体的に追跡することに注力した。二人が接触する日程や場所の傾向を割り出すため、特に金曜夜の行動に焦点を当てた。
翌週金曜日、直樹が再び「オークラウン」に向かった際、佐藤美咲が店内に現れるまでの間に直樹が何度もスマホを確認している姿が確認された。待ち合わせの時間になると、彼は笑顔で美咲を迎え入れた。二人の会話は和やかで、親密さを隠そうとする素振りは見られなかった。
その日はバーを出た後、二人は六本木通りを並んで歩き、タクシーに乗り込んだ。探偵たちは尾行を続け、タクシーが停車した先が高級ホテル「グランドハイアット東京」であることを確認。ホテルのエントランスで、二人が手を触れ合うような仕草を見せながらロビーに消える姿をカメラに収めた。
翌朝、二人は同じタクシーでホテルを後にし、直樹は自宅、佐藤美咲は港区内のマンションに帰宅した。この一連の行動を記録した証拠写真と動画は、調査の核心をつく重要なものとなった。
さらに調査を進める中で、二人がバー以外でも接触していることが発覚した。平日の昼休みには、会社から少し離れた隠れ家的イタリアンレストラン「リストランテ・ヴィアレ」で食事を共にしていた。席は奥まった半個室で、会話が他人に聞こえないよう配慮されていた。
探偵たちはこのような場面を繰り返し観察し、二人の関係が偶然の食事や飲み会の域を超え、明らかに特別なものになっていると判断。佳奈子への報告の準備が整いつつあったが、さらに深い情報を得るため、デジタルデバイスやSNSの調査を進める方針を決定した。
デジタルの痕跡: スマホとSNSの解析
浮気調査において、デジタル機器は重要な手がかりとなる。探偵たちは鈴木直樹と佐藤美咲のスマホやSNSの使用状況を詳細に解析するため、慎重に行動を開始した。直樹が使用するiPhone 13 Proは、ロック解除のための顔認証が設定されていることが観察されており、物理的なアクセスは難しいと判断された。そのため、SNSでの公開情報を起点に調査を進めることになった。
まず注目したのはInstagramだ。直樹のアカウントはプライベート設定だったが、公開されているプロフィール写真とフォロワーリストから、佐藤美咲のアカウントも特定できた。美咲のアカウントには「#秘密の夜」や「#オークラウンで乾杯」など、探偵たちが確認した行動と一致する投稿が含まれており、二人の関係を裏付ける状況証拠となった。
さらに、美咲が頻繁にアップロードしているストーリーの一部には、男性の手が写り込んでいる写真があった。腕時計のデザインや手の特徴から、それが直樹である可能性が高いと判断された。また、同じ日付に直樹が「仕事の関係者と会食」と佳奈子に伝えていた日記録が一致しており、浮気の確度が一層高まった。
LINEの解析も重要な調査項目だった。佳奈子の協力を得て、直樹が頻繁にやり取りしている名前を確認したところ、美咲とのメッセージ交換が増加していることがわかった。メッセージの内容は直接確認できなかったが、通知音の頻度と夜間におけるやり取りの多さから、親密な関係を示唆する傾向が見られた。
探偵たちはさらに踏み込んで、直樹がよく利用しているとみられるアプリを分析した。TinderやPairsのような出会い系アプリのインストールは確認されなかったものの、カレンダーアプリには「M」と記された予定が毎週のように登録されていた。「M」はおそらく美咲を指していると推測され、この予定は主にバーやレストランでの会合に紐付いていた。
これらのデジタル証拠を基に、探偵たちは直樹の行動パターンと美咲との接触の詳細なタイムラインを完成させた。この情報は、佳奈子に報告する際の決定的な材料となるとともに、直樹の浮気の事実をより確実なものにしていった。
追跡調査: 高級レストランとシティホテルの夜
浮気の実態をさらに明確にするため、探偵たちは直樹と美咲のデート現場を追跡し、その接触の詳細を記録することに注力した。これまでの調査で確認された金曜日以外にも、二人が会う日が増えていることがわかり、特に目立ったのが火曜日の夜だった。
2023年1月中旬のある火曜日、直樹は定時退社後、タクシーで新宿へ向かった。その日は、美咲と「ジョエル・ロブション」の高級フレンチレストランでディナーを楽しむ予定だった。探偵たちは店内のテーブル配置を事前に把握し、外部から見えない個室を二人が予約していたことを確認。お互いにワイングラスを傾けながら親密に会話を交わし、ときおり手を触れる姿を望遠カメラで捉えた。
ディナーの後、直樹と美咲は店を出てタクシーに乗り込み、今度は東京駅近くの高級シティホテル「シャングリ・ラホテル東京」へ向かった。探偵はホテルのロビーと入り口で二人の姿を撮影。直樹が受付でチェックイン手続きをする様子や、美咲がその横で微笑んでいる姿も確認できた。ホテルの客室フロアに向かうエレベーターに乗り込む二人の写真は、浮気の決定的な証拠として記録された。
翌朝、直樹と美咲はチェックアウト後、それぞれ別々のタクシーに乗り込み、直樹は自宅、美咲は勤務先へ向かった。直樹は佳奈子に対し、「昨晩は遅くまで得意先との会合があり、ホテルに泊まった」と報告していたことが後日判明。この虚偽の説明は、浮気を隠すための典型的な手口といえる。
この追跡調査によって、探偵たちは直樹と美咲が頻繁に高級なレストランやホテルで密会していることを立証。記録された写真や動画は、佳奈子が直樹に対峙する際の強力な証拠となる準備が整えられた。さらに、直樹がこの生活を支えるために多額の出費をしていることも明らかになり、浮気が家庭に与える経済的影響も浮き彫りになりつつあった。
家庭への影響と依頼者の決断
探偵事務所は、これまでの調査で収集した写真、動画、デジタルデータを整理し、依頼者である佳奈子に報告書を提出する準備を整えた。報告書には、直樹が佐藤美咲と頻繁に会い、高級レストランやホテルを利用していた詳細な行動記録が時系列でまとめられていた。また、経済的な側面についても、直樹が美咲との関係に注ぎ込んだ費用の見積もりが付記されていた。その総額は、ここ数ヶ月で少なくとも50万円を超えていた。
2023年2月初旬、佳奈子は探偵事務所を再訪した。報告書を受け取った彼女は、その内容を読み進めるにつれて、言葉を失っていった。静かな沈黙が続いた後、佳奈子は涙を拭いながらこう言った。
「やはり、現実なんですね……」
探偵の山崎は、冷静に報告を続けた。
「これが現在までの調査結果です。この証拠を使って法的措置を取ることも可能です。離婚をお考えの場合、慰謝料請求や財産分与についても弁護士のサポートをお勧めします」
佳奈子は深く息を吐き、少しだけ微笑んで言った。
「まずは、直樹と話をしようと思います。彼がどういう気持ちでこういうことをしたのか、直接聞かないと次に進めません。でも、証拠があるおかげで、彼が言い逃れできないことは安心です」
後日、佳奈子は報告書を手に、直樹と対峙する場を設けた。その対話の場は非常に緊張感のあるものだったが、直樹は最初は弁解を試みたものの、佳奈子が突きつけた写真や動画を見て観念した様子で全てを認めたという。
佳奈子はまだ最終的な決断をしていなかった。家族を守るべきか、直樹との関係を断ち切るべきか、悩みは尽きなかった。しかし、浮気という裏切り行為に直面したことで、彼女は自分自身の未来を真剣に考え始めていた。
探偵事務所の役割はここで一区切りとなったが、佳奈子が前に進むためのサポートは続ける意向を示した。浮気調査は真実を明らかにすることが目的であると同時に、依頼者が新たな一歩を踏み出すための手助けでもある。その使命を改めて感じる瞬間だった。
探偵が語る浮気の心理と教訓
今回の調査を振り返りながら、ベテラン探偵の山崎は、浮気の心理とその裏に潜む問題について考えを巡らせていた。浮気はただの気まぐれや衝動ではなく、多くの場合、家庭や個人の中で満たされない何かを埋めようとする行動から生じることが多い。
直樹の場合、表面的には理想の夫であり父であったが、仕事での成功や家庭での安定という「完璧な生活」の中で、彼自身の心の空白がどこかで膨らんでいたのかもしれない。浮気相手である美咲との関係は、彼にとって日常からの逃避であり、彼自身が見せたくない「もう一つの顔」を解放できる場所だったのだろう。
一方で、佳奈子が示した冷静さと行動力には探偵としても感銘を受けた。証拠を前にして感情的になるのではなく、まずは夫と向き合おうとした彼女の姿勢は、家族を愛するからこそ可能なものだった。山崎は、浮気という問題に直面した依頼者の中でも、佳奈子のように冷静かつ誠実に対応する人は稀だと感じた。
山崎はこう語る。
「浮気調査は単に『浮気をしているかどうか』を確認するだけの仕事ではありません。真実を知った後にどう向き合い、どのような未来を選ぶかは依頼者次第です。私たちはそのお手伝いをする立場に過ぎません。ですが、浮気が家庭にもたらす影響や、心の隙間がどのように人を動かすのかを知るたびに、この仕事の奥深さを痛感します」
今回の調査は、浮気がどれだけ家庭や人間関係を揺るがすものなのかを改めて浮き彫りにした。しかし同時に、それを乗り越えようとする依頼者の強さや、新たな一歩を踏み出す可能性をも示していた。
最後に山崎はこう締めくくる。
「どんな結果になろうとも、依頼者が新しい未来に進む手助けができたのであれば、それが私たち探偵にとっての何よりの成果です」
浮気調査の現場では、人間の本質に触れる機会が数多くある。その中で、依頼者がより良い選択をできるよう、探偵たちは今日も真実を追い続ける。